犬猫のリンパ腫
- セナ腫瘍科の症例
リンパ腫とは?(どんながんか)
リンパ腫は血液のがん、つまり白血病の一種であり、犬猫ともに非常に多く認められ、多中心型(リンパ節中心)、消化管型(胃腸中心)、縦隔型(胸部中心)、皮膚型(皮膚や粘膜中心)、節外型(脳や腎臓などその他の臓器)などに分かれ全身のあらゆる部位で発生します。
発生した場所によっておこる症状が異なり、また、治療への反応や経過が異なることが分かっています。
犬にできるリンパ腫の約80%が体のリンパ節の複数が腫れる多中心型と呼ばれ、
皮膚の下にあるリンパ節の腫れに気付いて動物病院を受診されるケースが多く、動物病院の診察において偶発的に見つかることもあります。
のどのリンパ節が腫れると呼吸が苦しくなったり、いびきをかくようになります。初期にはリンパ節の腫れだけであっても、進行してくると体のあらゆるところのリンパ節が大きくなり、元気・食欲の低下や体重の減少が起こります。
無治療の場合の平均余命は1~2ヵ月とされていますが、ひとくちにリンパ腫といっても様々なタイプがあり、早期発見/治療ができるか、治療内容等を含めて数ヵ月~数年まで大きく異なります。その悪性度を左右する要因としては、犬か猫か、高分化(低悪性度)か低分化(高悪性度)か、TかBか、発生部位などがあります。
診断(どんな検査をすべきか)
診断はがん化したリンパ節や胃腸などの組織から細胞を取る検査(細胞診)を行い、がん化したリンパ球細胞を検出します。典型的なリンパ腫細胞であれば診断可能な獣医師であればその場ですぐに確定診断できます。
リンパ腫の細胞診
さらに血液検査やレントゲン検査、超音波検査で病気の進行度を確認していきます。様々な場所で発生するため、時に組織をとる生検や内視鏡検査、CT・MRI検査、遺伝子検査などが必要になることもあります。以下が各検査において確認すべき内容です。
・血液検査―貧血の有無や内臓の状態などを調べる。
・血液凝固系検査―きちんと血が止まるかなどを調べる。
・レントゲン/超音波検査―胸やお腹に腫瘍の広がりや他の病気がないか調べる。
・尿検査―腎臓の状態などを調べる。
・肝臓/脾臓針吸引検査―肝臓、脾臓に転移が無いか調べる。
・骨髄検査 ―※麻酔 骨髄に転移が無いか調べる
・クローナリティ検査―リンパ腫のタイプ(B/T)を調べる。
治療(どんな治療法があり、何が最善か)
血液に存在するリンパ球のガンであるため全身療法である抗がん剤での治療が必要です。
いくつかの抗がん剤を組み合わせる治療が主体で、ご家族やその子の状況によって選択していきます。
あるデータではリンパ腫で無治療の場合、ほとんどの犬が4~6週間後に死亡することが報告されています。
リンパ腫の治療は根治(完治)目的ではなく、リンパ腫によって起こる悪影響、全身症状を改善して、見た目上腫瘍がいない状態(寛解)を目指し、リンパ腫と付き合いながら、できる限り生活の質を維持していくことが目標になっています。
【化学療法】
リンパ腫は血液のガンであるため、全身に効く治療方法である化学療法(抗がん剤)が主体となります。使用される抗がん剤は多種多様であり、動物の全身状態やリンパ腫の種類(分化型、TあるいはB細胞性、解剖学的部位、臨床ステージ)によって調整します。基本的には数種類の抗がん剤を組み合わせ、きちんと計画された間隔で薬剤を投与することが多いですが、通院や治療のコスト、治療効果、副作用のコントロール、予後などを相談して行います。
例)
① ステロイド単剤治療:
メリット:1日1回の内服、治療通院は2~3週ごとなので続けやすい
デメリット:数カ月間効果が期待できるがいずれ(約3か月ほど)効果は落ちてくる。副作用は軽度で、多飲多尿が生活上少し大変になる可能性がある。
② 抗がん剤治療(化学療法):主に2つのプロトコール
A) CHOP療法:約半年間、週に1回毎週抗がん剤を点滴する。
メリット:最も抗腫瘍効果が期待できる、1年生きることをまず目標にする。反応性や個体差により様々。
デメリット: 通院が週に1回以上必要で、抗がん剤の副作用として食欲不振や下痢、嘔吐などが投与ごとに起こる。ときに(約5%)致命的な副作用がでる。
費用:抗がん剤、検査、内服薬含めTotal数万円/毎週
B)抗がん剤単剤療法(L-CCNU、ドキソルビシンなど):3週間ごとに1回の抗がん剤投与
メリット:ステロイド単剤よりも効果が期待できる。食欲不振や嘔吐などの副作用が軽度。投与頻度や負担がA)より少ない。
デメリット: A)よりは少し薬剤強度落ちる。
費用:抗がん剤、検査、内服薬含めTotal数万/月
【外科療法】
リンパ腫は全身性疾患であるため、通常は外科療法の適応ではありません。しかし、皮膚や腸に孤立して腫瘤を形成していたり、眼球や腹腔内でも孤立して病変をつくっている場合には、手術により大きなリンパ腫の病変を取り除き、がん細胞の数を減らすことは有効になります。しかし、外科手術のみの治療で終わらず、補助療法として化学療法や放射線療法を併用し、全身に対する治療を施すことが必要になってきます。
【放射線療法】
リンパ球は放射線に対しての感受性が高いことから、腫瘍が限局している場合は局所への照射も効果的と考えられます。。
予後(今後どうなるのか)下記の予後因子により様々です。
・サブステージ=臨床症状の有無:サブステージb(症状あり)はサブステージaより予後が良くない。
・T/B細胞:B細胞性リンパ腫はT細胞性リンパ腫より予後が良い
・解剖学的部位:多中心型は比較的予後が良い
・ステロイド投与歴:化学療法開始前にステロイド投与を行った患者は行わなかった患者より予後が良くない
・臨床ステージ:ステージ1,2はステージ5より予後が良い
・高カルシウム血症:高カルシウム血症は予後が良くない
・組織型:高分化型は低分化型より予後が良い
・体重:小型犬は大型犬より予後が良い
まとめ
数週間で命に関わることもあれば、抗がん剤治療により年単位で元気に過ごせることもあります。ただし、長生きするためには抗がん剤による治療は欠かせません。ポイントは抗がん剤の力を上手に借りて元気に過ごすこと。ご不明なことご不安なことなんでもご相談ください。一緒に頑張りましょう。 腫瘍科 竹村晨